テーマ:熊本地震の建物被害および免震建物の挙動
講師:高山 峯夫(福岡大学 教授)
日時:平成28年8月10日
概要:

2016年4月14日(前震)と4月16日(本震)に発生した一連の熊本地震による被害は熊本県の発表によれば(2016年9月14日現在)、人的被害(死者数)は関連死を含めると111名、住家被害は全壊8,176棟、半壊29,463棟、一部破損130,873棟となっている。避難者はピーク時(4月17日)には183,882名にのぼった。

この地震を受けて日本建築学会九州支部では災害調査委員会(委員長:高山峯夫)を設置した。災害調査委員会は、日本建築学会九州支部の構造委員会(委員長:菊池健児)と災害委員会(委員長:高山峯夫)の構成員を中心に組織された。災害調査委員会では主に構造種別ごとに調査班を組織し、日本建築学会本部委員会との連携もはかりながら、建物被害の調査にあたることにした。こうした活動の他に、木造住宅の被害が著しかった益城町においては、被害が集中した地域を中心に悉皆調査を実施した。

熊本地震の建物被害調査結果の概要、および熊本県内の免震構造の地震時挙動について紹介した。

益城町において木造住宅が全壊・倒壊した要因については、①建設年代が古い(旧耐震基準)、②設計基準を超える入力地震動、③地盤・基礎の変状(断層運動によるズレも含め)、④腐朽や施工不良、などが考えられる。日本活断層学会の調査によれば益城町での建物被害が集中した県道28号線沿いに断層があったのではないかと報告されている。この点に関して、国土交通省は益城町でボーリング調査などを実施し、断層の有無について中間報告を出している。この中間報告によれば、県道28号線沿いに3本の断層があるとされている。この断層の位置は、建物被害が集中した地域と重なっており、こうした断層の存在が建物被害を拡大させた要因かもしれない。なお、発見された断層は「木山断層」という名称で知られていたという。断層近傍における建築物の耐震設計はどうすべきかについて考えていくことが必要だろう。

一方、免震建物の調査から、以下のようにまとめられる。
(1) いずれの免震建物においても、地震直後から建物機能を失わず継続使用が可能であった。
(2) ダンパーの形状変化を確認した。これらは繰り返し変形に伴って生じるものであり、予想範囲内である。ダンパーや積層ゴム支承などの免震部材の点検は地震発生後に適切に実施されており、必要であれば交換することが可能である。
(3) 今回調査を行った免震建物には地震計が設置されていなかった。また、ほとんどの共同住宅においてけがき板の設置はなかった。地震の後の免震部材の健全性を確認するためには地震計による観測が有効である。地震計の設置が難しい場合には、少なくともけがき板を設置すべきであろう。

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(文責:高山峯夫)