テーマ:なぜ木造住宅は倒壊したか その原因と今後の対策
-平成28年熊本地震の被害と今後の展望-
講 師:五十田 博先生(京都大学 生存圏研究所 教授)
日 時:平成29年5月10日

概 要:平成28年熊本地震では現行規定で建てられた木造住宅が倒壊した。一方で、現行法令は妥当との判断がされている。そこで本講演では、なぜ、木造住宅は倒壊したのか、その原因を解説するとともに、その教訓を今後の耐震設計を活かし倒壊を防ぐにはどうすればよいのか、について概説していただいた。

熊本地震による木造住宅の設計に突きつけた課題として、

・旧耐震、新耐震、2000年以降の耐震性
・木造住宅の地震に対する実力(余力)
・繰り返し地震の影響
・構工法(軸組、枠組ほか)と耐震性能

などがあげられる。益城町において日本建築学会九州支部で実施した悉皆調査からは、建設年代が新しいほど大破・倒壊した木造住宅の割合は小さくなることがわかっている。

1981年以前の住宅で大破以上の被害が出たのは、益城町役場から南側の地域で大半が壊滅的な被害であった。被害要因については、壁量不足、不十分な接合、壁の悪い配置、劣化、地盤変状などが考えられる。1981年以降での大破以上の被害が出たのは、何らかの耐震設計上の不備(法令不適合)があった。金物があっても2000年基準を満たしていない、金物に対して所定の釘が使われていない、壁のバランスが悪い、重い外壁やソーラーパネルなど想定以上に固定荷重が大きかった。

2000年以降の住宅で7棟が倒壊した。7棟のうち3棟に金物がなかった、地盤変状に起因すると思われる被害が1棟、重い外壁で結果として設計値を満足していないのが1棟、耐力壁周辺の接合部の設計不良が1棟、局所的に大きな揺れが要因と思われるのが1棟(ただし原因は特定できず)。

これからの木造住宅の耐震設計には下記が求められる。

・耐震性能を決めるのは構造計画・設計、施工
・軸組工法は相対的に弱い。とはいえ、設計次第
・設計で考慮していない壁(準耐力壁)を確保することが大事→できないなら設計値を上げる
・下屋への荷重伝達ができるように、2階下部にも壁をバランスよく入れる
・壁量の充足率が最大性能。接合部が悪ければ、壁のバランスが悪ければ性能は落ちる
・固定荷重の前提が軽め
・旧耐震住宅の耐震化

建設年代によって被害には大きな差が見られた。これは耐震基準の改訂による効果といえるのか、それとも経年変化(劣化)の影響なのか。仕上げ材の耐力の寄与も含めて、さらなる研究が待たれる。

(文責:高山峯夫)