3回耐震工学研究会 高山峯夫氏講演録

2000126
湘南セミナーハウスにて

 photo_takayama.jpg (41989 バイト)

 

 積層ゴムの基本的な特性についてお話しをさせていただきます。基本的には天然ゴム系積層ゴムの力学的特性、即ち、圧縮、引張、せん断特性を中心にお話しします。
 「免震」という言葉が出始めたのは100年ぐらい前。当時、免震は既にかたちとしては存在していましたが、実用的な技術にはなっていませんでした。ただ、すべりや転がりを使ったものとか、アイデアとしてはいろいろ出ていました。その後、192030年代にかけて柔剛論争が行われ、我が国の耐震設計、構造設計のあり方が決まりました。それ以降、剛構造の設計が採用されてきたわけです。
 積層ゴムが出現したのは1970年代。フランスで実用的な積層ゴムが開発され、実用的な免震構造が出現するという素地ができあがることになります。1980年代に入り、日本でも多田英之先生が免震構造に関するさまざまな実験、研究を始められました。
 それと平行して、積層ゴムの開発が進められました。直径30cm、ゴム厚は一次形状係数S11020相当と、今から見るとかなり低い値のものでしたが、直径30cmで横方向に18cm以上の変形に耐えられるということで、接着性能やその他の性能などを含め、積層ゴムは実用的なレベルに達したということができると思います。それが昭和5556年のことです。
 これらの研究を受け、1983年に国内初の免震建物、八千代台住宅ができあがります。2階建てのRC住宅。直径30cmの積層ゴムが6体付いています。重量は200ton強。それを6体で支えている。もう少しで20年ですが、20年経った積層ゴムを取り出して調べてみるのも面白いかなと考えています。
 構造躯体ができあがった段階で、常時微動測定、強制振動実験、自由振動実験などいろいろなことをしました。自由振動実験では直径の半分弱ぐらい、今から見ても結構大きな振幅といえる12cmぐらいまで引っ張っりました。
 その後、「下を揺すっていない」ということで、簡易的(積層ゴムをローラー代わりにした)な振動台を作り、実大の2階建てRC建物に関するいろいろな振動実験を行い、データを収集しました。そして、現在に至っています。
 昭和57年の八千代台以降、58年、59年の2年間は免震建物は設計されていません。そして60年以降ぽつぽつと出てくるようになります。平成7年に阪神大震災が起こり、それ以降、阪神大震災以前の10年間分以上の数の免震建物が毎年設計される状況になっています。半分ぐらいが共同住宅、マンション。阪神大震災以降、病院、事務所も増え出しています。
 総延べ床面積を見ると、1997年−−1998年のものも若干入っていますが−−は約120m2。1棟当たりの延べ床面積は1m2前後ということで、昔と比べると規模の大きな建物が増えています。
 免震が普及し始めた大きな原因に、阪神大震災などによって免震性能が確認されたということがあります。阪神大震災の1年前にはアメリカのカリフォルニア州でノースリッジ地震が起こっていますが、震源からほど近い南カリフォルニア大学の大学病院が顕著な免震効果を発揮したという記録が残っています。
 この病院は何らの損傷を受けることがなく、病院内の売店に置かれた花瓶も倒れなかった。地震が起きたとき、脳の手術が行われていましたが、地震の揺れがおさまるのを待って手術を再開し、無事終了したといいます。これも、免震構造の効果が十二分に発揮された例のひとつだと思います。
 阪神大震災でも、震源から30キロほど離れたところに免震構造を採用した郵政省の電算センターがあり、その地震記録が残っています。
 基礎部分が東西方向で299.8ガル、約300ガルの最大加速度。上部構造は1階が105ガル、6階が102.6ガルということで、入力が3分の1に低減され、1階と6階もほぼ同程度の加速度応答になっており、免震効果が確認されています。この時の変形は加速度波形を積分するなりすればわかるのですが、片側にだいたい10cmぐらいでした。
 これらの成果を受け、現在免震は超高層にも適用されていますし、古い重要な建物を残していく耐震改修にも免震構造が採用されています。アメリカではソルトレイクシティのシティーホール、オークランドのシティホールをはじめ耐震改修の例が多い。我が国でも、国立西洋美術館の免震での耐震改修がよく知られています。
 免震構法の用途は年々広がっています。免震構造の性能の理解、そしてデバイスの能力が十分発揮される限界性能の理解がこれを可能にし、支えているのだと思います。

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 それでは、デバイスの性能をどのように考えていくべきなのか。積層ゴムの基本的なところからお話ししたいと思います。
 基本構造。積層ゴムという名前の通り、薄いゴム層と鉄板のサンドイッチ構造です。中間鋼板−−内部鋼板という言い方もしますが−−とゴムがサンドイッチ構造になっていて、上下の躯体に取り付けられるようなフランジが付いている。積層ゴムの形状を規定する基本的なパラメータは、ゴムの直径、ゴム層厚とゴム層数。これが基本的な形状係数パラメータです。もちろん、直径、ゴム層厚とゴム層数で表してもいいんですが、1次形状係数S12次形状係数S2という無次元量で規定することが多いです。この二つを使うことによって、ある程度一般的な評価ができるのではないか、といわれています。
 S1とは、ゴム1層だけを取り出してきて、ゴム1層の鋼板との接着部分の面積をゴムの側面積で割ったものです。ゴムは圧縮されると、中間鋼板と接着している部分は横に逃げることができないのに対し、側面部分は自由に変形して横に膨らみ出すことになります。中間鋼板と接着した部分の面積と、横に膨らむことができる部分の面積との比率をとったものが1次形状係数ということになります。
 2次形状係数S2は、簡単に言うとゴムの直径と総ゴム厚の比率。高さではなく、総ゴム厚を用いることで、積層ゴムの扁平さのようなものを表しています。2次形状係数は多田先生が積層ゴム用に導入されたもので、1次形状係数は防振ゴムの分野で以前から使われていたものです。
 積層ゴムの真ん中に孔が空いていることがあります。中心孔と呼ばれるもので、製造上、中心を合わせるために必要だといわれています。中心に孔が空いていると、ゴムは中心に向けても膨らむことができるので、その分だけ1次形状係数が小さくなります。
 昔は直径と比べてずいぶん大きな孔が空いていました。熱と圧力を加えてゴムを作るのですが、ゴムの直径が大きくなると、熱の分布、熱を均一にかけるのが難しいということで、側面、上下に加え、中心からも熱を加える。大きな孔が空いていると性能上問題がある、積層ゴムを厳密に評価すると孔の問題は無視できないということで、現在ではかつてと比べてかなり小さな孔径になってきています。まったく孔がない積層ゴムを作っているメーカーもあります。

 それでは、どうして積層体なのか。ゴムの1層が厚ければ、圧縮を受けて横に変形し、最後はバシャッと潰れてしまう。これは感覚的にも理解できると思います。それでは薄くすればいい、薄ければ薄いほどいい、ということです。そうすれば、横にせん断変形する場合、変形量が小さくなる。それを何段も積み重ねれば、縦方向に非常に強く、せん断変形を受けるときにはゴムの柔らかさで変形するものができます。
 大きく分けて、積層ゴムには中間鋼板露出型(被覆ゴム後巻き型ともいう)と被覆ゴム一体型の二つがあります。中間鋼板露出型は、ゴム層よりも中間鋼板の方が、若干大きな直径を持っています。被覆ゴム一体型は被覆ゴムが一体に成型されたもので、外観からでは中間鋼板が何枚入っているか判断できません。

  積層ゴムをはじめとするアイソレータ全般に要求される基本的な性能は鉛直支持能力と水平変形能力と水平バネの柔らかさとなります。そして、耐久性です。
 さらには、水平剛性の変動が小さく、大変形域で不安定現象が生じないこと。地震時には転倒モーメントが働くので、軸力変動が存在します。軸力変動が起こって、それによって水平剛性が変わるようでは解析、設計が難しくなる。免震層の復元力、特性の信頼性にもかかわってきます。軸力変動が起こっても、水平剛性の変動、あるいは復元力特性の変動が起きないデバイスを使うことが重要になってくる。軸力変動に対して、いかに鈍感な積層ゴムを作るか、設計するかが重要な点になってくるわけです。
 これに関係してくるのが、当然ながら積層ゴムの形状です。S1S2、つまりゴムの直径、ゴム厚、ゴム層数、及びゴムの材質となります。ゴムは液体である、時に気体であるともいわれます。どういうことかというと、ゴムはミクロブラウン運動をしているのです。高分子はゴムの中で架橋として他の高分子とつながっている。引張などの応力がかかっていない状態では、それが丸まっている。架橋としてつながっている部分以外はある程度自由に動ける状態にあります。そういう意味で、液体的な特性を示すというのがゴムの特徴。当然、非圧縮性ということで、ポアソン比は約0.5。弾性率が低くて伸びが大きいという特性を持っています。
 このように、ゴムは今までの構造材料にはない良い材料特性を持っているわけです。天然ゴムだけの原材料だけでできているのではなく、いろいろな添加剤を加えることによって、ゴムの弾性が発揮されることになる。原料ゴムを練り、可塑ゴムができあがる。それに軟化剤、加硫剤、いろいろな防止剤を添加して、配合ゴムができあがります。これをある一定の厚さにシーティングして、切り抜き、成型して加硫、熱と圧力を加える作業に移る。この加硫で高分子がある程度結びついていく。そのために硫黄が使われます。
 製品になったときのせん断弾性率Gとゴム材料自体のG、つまり材料特性、焼き上がる前と焼き上がった後で若干違ってくるという問題があります。製品の特性をきちんと評価するためには、どうしても製品検査をする必要がある。加硫という過程を経ることで材料特性が変わる可能性があるからです。
 いずれにしても、ゴムと、その形状に関してはいろいろな実験と計算方法があり、それによって積層ゴムの設計の基本ができあがっています。

 ここから、圧縮、引張、せん断特性について話しを進めていきます。
 まず、圧縮について。圧縮剛性は次のように計算しています。

ここで、, :全ゴム層厚, :断面積

E0はゴム材料のヤング率。ゴム材料の引張試験をして、その時に得られたヤング率です。実際、圧縮剛性を計算するときには、材料のヤング率に、このκ(カッパー)という係数、S12乗がかかることになります。κは理論的には必要ないのですが、理論値を実験値に合わせるための一種の係数(0.51程度)です。いずれにしても、S1が非常に大きな影響を及ぼすことがわかります。
 ゴムは非圧縮性なので、体積弾性率Ebは本来、無限大とすることができますが、この頃は非常に薄いゴムシートが使われているので、体積弾性率を無視できません。体積弾性率でヤング率を補正するという作業が少し必要になります。体積弾性率で補正されたヤング率に断面積を掛け、総ゴム厚で割れば圧縮剛性が出るわけです。
 もちろん、材料によるヤング率は重要ですが、S1、即ちどのぐらい厚さのゴムシートを使うかによって圧縮剛性が変わってくることがわかっていただけると思います。
 それでは実際に圧縮試験をしたらどうなるか。

 (Fig-1)左側と右側の試験体は、若干、ゴムの厚さが違います。直径はいずれも500mmの積層ゴム。左側はゴム厚7mm14層。右側は3.75mm26層。1次形状係数は左側が18で、右側が33となります。
 図中に線が3本あります。オフセットせん断変形率0100200%0%というのは単純圧縮で圧縮したときの荷重−変形関係。縦軸は面圧、圧縮応力度300kg/cm2まで加えています。力になおすと600トンがかかった状態です。
 せん断変形率とは何かというと、総ゴム厚に対して100%200%ということですから、7mm14層、つまり総ゴム厚98mm100%というのはせん断変形を98mm与えた状態で圧縮試験をしています。200%はその2倍、約200mmの変形を与えて圧縮試験をしたということです。
 左側は単純圧縮で600トンを加えて約4mm変形する。せん断変形が大きくなると、若干、剛性が低下していきます。
 それに対し、右側は単純圧縮で3mmぐらい。圧縮剛性が高くなっている。S1の効果が出ています。さらにせん断変形を与えた状態でも、剛性の低下が少なくなっていることがわかります。

 実際、積層ゴムにどのくらいまでの圧縮耐力があるのか。それを確認したのが1991年、三菱重工業の長崎造船所で行った実験です。8000トンのプレス機を使って積層ゴムを潰してみよう、ということをやりました。実大の実験としては他に例がありません。使った試験体は直径500mm、ゴム厚7mm14層のものです。現在では1次形状係数30ぐらいのものが多いのですが、この時の試験体のS118です。
 (Fig-2)2本線が描いてありますが、左側の線が単純圧縮をしたときのもの。右側は140%、つまり14cmのせん断変形を与えて圧縮したときのものです。
 縦軸は面圧。まず面圧500kg/cm2まで圧縮を加えて、それから1000kg/cm22000kg/cm2まで圧縮を加える。一度もとに戻して、壊れるまで加力しました。面圧1200kg/cm2ぐらいで変化が出始めます。おそらく、中間鋼板の塑性化、あるいは損傷、亀裂が入るレベルではないかと考えています。その後、剛性が初期のものの10分の1ぐらいに低下して、最終的に1500 kg/cm2で破壊にいたりました。
 せん断変形を与えた状態では、少し低下しているものの、似たような荷重−変形関係をとりました。
 この時の破断は(Fig-3)、中間鋼板が引きちぎられたことによるものだと考えています。それが、どのような機構なのかを単純に考えてみます。上から力を加えると、ゴムは流体のようなものなので横に逃げようとする。ゴムが横に逃げようとするのを抑えるのが中間鋼板の役目ですから、当然、中間鋼板には引張力が働く。どのくらいの圧力がゴム層に生じるのかは理論的には出てきます。鋼板に働く応力度は中間鋼板の厚さtSに対するゴム層の厚さtRの比率に中央部の圧力pmaxを乗じたものとして計算ができる。中央部に与えられた圧力をどう見るか。面圧の1.5倍(平面ひずみ状態での理論値)ぐらいをみてあげると、こんな式がでてきます。

 試験体はゴム厚が7mmで中間鋼板の厚みが3.2mm。ゴム厚が中間鋼板の厚みの約2倍。従って、3σになる。面圧の3倍ぐらいが引張力として中間鋼板に働くことになります。通常の100 kg/cm2150 kg/cm2の面圧であれば、大した力ではないのですが、1200から1500 kg/cm2ぐらいになると、その3倍ということで4000 kg/cm2ぐらいの引張応力が出るという計算になります。
 簡単に言うと、こういうメカニズムで中間鋼板が切れた。中間鋼板が切れれば、当然、ゴムという水はどんどん逃げていく。それによって全体的な耐荷機構が崩れ、最終的に崩壊にいたったと考えられます。
 現在はゴム厚がもっと薄くなっています。たとえば、ゴム厚が3.5mmで中間鋼板が3.2mmになれば、より高い限界耐力を持っていると想像できます。
 今の積層ゴムに近い試験体で実大の圧縮破壊試験をしようという計画もあります。

 次に、引張です。
 高層建築に免震を採用するという段になると、「引張力が働くのではないか」「それにどう対応するのか」という話しが出ます。高強度積層ゴムというようなものを作って力で抵抗させよう、ということをやっているメーカーもあります。設計者の判断なので何とも言えませんが、引張に力で抵抗させるのか、変形で対応するのか。伸びが期待できるのであれば変形で逃げるのもひとつの手だと思います。
 いずれにしても、積層ゴムの引張については、あまりよくわかっていないというのが現状です。昔、多田先生が福岡大学におられたとき、積層ゴムの引張に関する実験をやったことがあるのですが、すぐ切れてしまって、伸びがほとんど期待できませんでした。面圧10 kg/cm2ちょっとぐらいでブチッと切れてそれで終わり。それ以来、「引張はあまり期待できないな」ということで、引張を作用させないような設計を続けてきたのですが、いろいろやってみますと、結構伸びることがわかってきまして、実際に引張試験をやってみますと、全ゴム厚の23倍の引張を与えても切れないようになりました。製造技術が上がり、接着技術やゴムの組成などが良くなったのだと思いますが、いずれにしても大きな変形に対しても十分耐えることがわかってきました。
  (Fig-4)基本的には、引張を与えるとバイリニア的な、あるところまでは弾性を保つが、それ以降は降伏したような挙動を示します。
 破線がある積層ゴムの単純引張。まっすぐ引っ張ったときにどこまで伸びるか、を確認した試験です。だいたい総ゴム厚の300%ぐらい伸びて切れたことがわかります。
 単純引張では総ゴム厚の3倍ぐらい引っ張ると切れる。すごい伸び能力を持っています。ただ、応力的には20 kg/cm2で弾性でなくなります(降伏に似ていますが、鋼材などの降伏とは違う)。ゴムのせん断弾性率が4.5 kg/cm2ぐらいですから、45倍で内部にある程度の損傷が発生して、伸びがどんどん進行して、最終的に切れるということになります。
 実線の方は、オフセットせん断変形の200%の変形を与えながら引っ張り変形を与えた状態です。試験機の関係で150%までしか引っ張っていない。せん断変形を20cm与えて、15cm引っ張った(Fig-5)。外観上はまったく損傷が見られませんでした。外から見ただけでは引っ張りの影響の判断がつかない。これだけ大きな引っ張りを与えた後に、圧縮試験や圧縮せん断試験をやってみれば特性変化がわかるのではないか、と免震構造協会の方でやりました。多少の水平剛性、圧縮剛性の低下は見られるのですが、それほど大きな低下は見られませんでした。だから、どこまで引っ張ってもいいのか、これ以上引っ張ったら特性変化が起きる、ということが明らかにならなかった。最初は、どこかに境界、限界があるのではと期待していたのですが、わかりませんでした。
 いずれにしても、これだけ引っ張っても壊れないというのが、今の積層ゴムのレベルです。ですから、無理に力で抵抗しなくても、伸びで力を逃がすことも十分あり得る選択肢だと思います。ただ、これだけ伸びているわけですから、内部はある程度の損傷を受けているはずです。材料試験レベルでいいますと、こういう引っ張りを与えた後、中を切ってみると、中に空隙ができていることがわかっています。単調に引っ張って積層ゴムを壊すときにも、内部に小さな穴のような無数の空洞がみとめられています。
 圧縮を受けているときは3軸圧縮(静水圧)なので非常にいいんですが、逆に引っ張られるときは3軸で引っ張られようとするので、当然に体積変化が追いつかない。内部が分子レベルで切れていっているように思われます。それをもう一度圧縮、せん断してみると、それほど復元力が変わっていないということで、摩擦など何らかの力が働いて、初期の性能に近いレベルまで持っていけるんだなと考えています。問題は、何十年経ってもその性能が維持できているのかということですが、今はまだ調査が必要です。

 水平方向の動きについて。
 水平方向に関しては、水平剛性の理論式が出ています。これはもともと積層ゴムに関する理論ではありません。かつて、ハリングスという人がゴムロッドの解析をしました。鉄にゴムをはさんで、それを関節のようにいっぱいつなげたときの座屈の式を作ろうということで、特性評価を理論的に追えないかということで理論式を展開したわけです。それを流用して積層ゴムの水平剛性式を作りました。

,    

ここで、, , :断面2次モーメント

 この式の中のPは圧縮荷重。Pが入ることによって、荷重が増えていったときに水平剛性がどう変化していくのかを追える式になっています。Erは曲げに関する見かけのヤング係数で、ゴム単層に曲げを加えたとき、曲げモーメントと回転の関係から求められます。圧縮の時と同じようにヤング率にS12乗がかかってくる。係数は先ほどの2ではなく、3分の2になっています。
 実際はどうなっているか。圧縮せん断試験のときにも使った直径500mm、ゴム厚7mm14層のものを使って実験しました(Fig-6a)。面圧0100200300 kg/cm2をかけたときの水平変位と水平荷重の関係を調べてみました。
 総ゴム厚が98mmに対して水平変位は±300mmですから、約300%のせん断変形率を与えたことになります。面圧0では、ほぼ線形の荷重変形関係を示しています。100 kg/cm2までは、ほぼ似たようなかたちです。200 kg/cm2になると少し勾配が小さくなって、履歴面積が若干増える。300 kg/cm2になると、水平変位0付近だと、水平剛性がほとんど0。変形が進んでいくと、ゴムのハードニング、ひずみ硬化によって、荷重が上がってきます。
 ですから、面圧が増えていけば、水平剛性は低下していく。ある限界点を超えると、ある意味で座屈的な傾向を示します。
 その時の鉛直沈み込み量です。せん断変形を加えると、当然、高さが変化していくので、それをどのくらいなのかを示したものです。面圧200 kg/cm2を加えて30cm変形させたときに、約2mmぐらい沈みます。総ゴム厚98mmに対して2mmですから約2%ぐらい。300 kg/cm2を加えますと、それが4mmぐらいに増えます。
 これに対して、これはゴム厚3.75mm26層のもの(Fig-6b)。まったく同じ試験をやっているのですが、面圧0から100 kg/cm2ぐらいまではゴム厚、つまりS1の影響はあまり見られません。ところが200300 kg/cm2になると、ゴム厚、形状の違いが顕著に見られる。200 kg/cm2かけても、若干履歴面積が増えるものの、0から100 kg/cm2までとさほど変わらない特性を示しています。300 kg/cm2になっても、剛性を保っていることがわかります。形状の違いによる影響ということが言えます。
 鉛直沈み込み量を見ても、300 kg/cm2をかけたとき、ゴム厚7mm×14層の鉛直沈み込み量が4mmだったのに対して、3.75mm×26層は2mmと、沈み込みが半分になっています。S1が高い方が鉛直剛性も高いので、その影響もあります。

 荷重変形関係から水平剛性を計算してみようということで、実際に計算してみました。水平剛性をどうやって計算するのか。300 kg/cm2という高い面圧のときの剛性をどうやって評価するか。ピークとピークを結んで、その割線剛性的なもので評価しようとすると、当然剛性は出てきます。ところが実際の復元力というのは、水平変形がほぼ0になっているので、割線剛性は実体を十分評価していないのではないか、ということになります。そこで、せん断変形率±100%の領域で剛性を評価すべきではないか、その方が座屈の傾向や積層ゴムの本質を捕らえているのではないかと考えています。
 そのように接線剛性的な取り方をしたのが、この図になります(Fig-7)S133のものです。横軸に圧縮応力度、即ち面圧をとり、縦軸に水平剛性を理論値で割って基準化したもので表現しています。
 太い線はハリングスが提案した式に基づいた理論式です。面圧、圧縮応力を高めていくに従って、水平剛性は低下するということが現れています。
 実験値は与えた変形量によって若干変わってきますが、理論と比べても低下量、水平剛性の面圧依存性は、ほぼ似たようなことを示していることがわかります。
 右側と左側の違いは何かというと、鋼板露出型と鋼板埋め込み型の違いです。形状は同じ。両方とも天然ゴムで、せん断弾性率は4.5 kg/cm2です。メーカーが違うので、ゴムの製法や添加剤は若干違うでしょうが、如実に現れているのは、水平剛性の低下が鋼板埋め込み型は非常に大きいということ。鋼板が露出しているか埋め込まれているかで違いが出ているのだと思いますが、どうして、というのはよくわかりません。FEM解析などで追えないことはないかな、と考えていますが、まだやっていません。
 私は、原因のひとつは「精度」だと考えています。鋼板露出型はモールド、型で鋼板が押さえ込まれているので、動けない。埋め込み型は鋼板がゴムの中に浮いているわけですから、それなりの許容量が必要になります。きちんと品質管理ができればいいのですが、少しルーズになると、極端な話し、鋼板が傾いて入ることも考えられます。そうすると当然、座屈などに影響してくる。そのような精度の問題が影響しているのではないかと考えています。

 横軸に荷重、面圧、縦軸に水平剛性をとったものです(Fig-8)。水平剛性の理論式が非常にややこしいので、もっと簡単にならないかということで、こんな式で略算できます。

Pcrというのは座屈荷重。座屈荷重に対する圧縮荷重を1から引いてあげれば放物線のようなカーブが出てきて、ほぼ厳密解と等しい特性値が得られます。その積層ゴムの座屈荷重がある程度わかれば、それに応じてそのカーブが引けるということになります。
 座屈荷重を計算すると、複雑な式になるのですが、使いにくいので、少し簡略化をすると、こんなかたちで得られます。

σcrというのは座屈応力度。座屈応力度というのはゴムのせん断弾性率G1次形状係数S12次形状係数S2を掛けた値で評価できます。その前に付いた係数ξは、多少補正をする必要があるのですが、基本的にはGS1S2を掛ければいいということになります。
 そうすると、S130S25G4kg/cm2だとすると、4×30×5600。座屈応力度は約600kg/cm2ということになります。面圧約600kg/cm2ぐらいで水平剛性はほぼ0になるだろうという予測がつきます。
 それでは、積層ゴムの設計面圧として「どのあたりで使うのか」という話しが当然出てきます。座屈応力度の半分、300 kg/cm2ぐらいまでいくと、2割強の水平剛性の低下が起きるよということがわかります。150 kg/cm2だと1割強の低下で済む。ですから、どのくらいの範囲で積層ゴムの面圧、軸力変動を考えるかということで水平剛性の変動枠はできてきます。それが一定の許容値に収まっていれば軸力変動はある範囲では無視できるかも知れないし、ひょっとすると座屈応力度があまりに小さいと荷重変動が非常に大きくなってくる可能性もあります。

 水平方向の限界特性について。
 上と同じS11833の二つの試験体(直径500mm)について、単調な破断試験をやっています(Fig-9)。上のグラフは横軸がせん断変形率で、縦軸が水平荷重をせん断応力度で評価しています。単調にずーっと押していって、ブチッと切れるまで試験をしたということです。
 実線の2本は、S133、薄いゴム厚のもの。破線はS118のものです。試験はそれぞれ200300 kg/cm2の面圧をかけた状態で破断試験をしています。
 当然ながらS1が高い方が面圧依存性が小さいですから、200300 kg/cm2の面圧をかけた状態でも、水平剛性の低下もなく線形の特徴を示しています。S118のものは200300 kg/cm2になると水平剛性がかなり低下してきます。
 せん断変形率250%から300%を超えるあたりからゴムのハードニング、ひずみ硬化が出始め、最終的には400%を超えたあたりでブチッと切れるということになります。当然、積層ゴムを線形領域で使うとすれば、妥当な範囲がわかるのですが、そこから積層ゴムが切れるまでにはなお1.5倍の余裕があることになります。
  直径800mmの実大クラスでも実験しています。この中に3本の線が書いてあるのですが、面圧100から300 kg/cm2までの試験結果です。3倍に面圧が変わっても復元力特性はあまり変化していないことが見てとれます。

 これは、直径500mmの試験体に300 kg/cm2の面圧をかけて行った破断試験の状況です(Fig-10)。変形量としては400%に近い、限界点の手前のところです。このような変形状態を破断直前まで保っている。よく見ると、上下面の重なっている部分は非常に小さな領域なのですが、こういう状態で本当に荷重支持能力があるのかが当然言われますし、「こんなに変形したら倒れるんじゃないか」ということが昔はよく言われました。
  FEM解析をずいぶん前からやっていますが、これによれば、当然ながら、せん断変形が大きくなるにつれて、中央部に高い応力が集まってくるようになる。他の部分はあまり荷重を支えていないという状態になります。変形が小さいときは全体で建物の荷重を支えているのですが、変形が大きくなると上面と下面が重なっている部分が非常に大きな力を受けるようになる。要は、反力の位置がどんどん変わっている。どんどん変わることによって、転倒モーメントなどをキャンセルしているということがわかったわけです。(Fig-11)
 圧縮時は放物線状の反力分布になっています。せん断変形が出てくると、反力が片側に寄ってくる状況になり、積層ゴム自体には曲げモーメントが出てこないことになる。ですから、大きな変形をしても積層ゴムにはそれをうち消す反力分布が出てくるということで、非常に安定した変形能力を発揮することができるということになります。ただ、曲げモーメントは出てますから、このモーメントはどこかで受けなければいけないことになり、その分は基礎側か1階床側で対応しなければいけないということになります。
 「どのくらいまで変形能力を使っていいのか」「使えるのか」、という話しが当然出てきます。それは積層ゴムの形状、材質、面圧、それらが複合的に絡んで、簡単には言えないのですが、ひとつの考え方として、上面と下面が重なっている部分で大部分の荷重を受けているのだから、その部分の応力度が座屈荷重に等しくなれば、ひとつの限界になるのではないか、という考えもあります。実際はそれ以上の変形能力を持っているのですが、これをひとつの目安と考えれば、安定限界の変形限界の線が出てくるのではないか、と私は言っています。が、これを実際に確認した実験データは非常に少ない。
 いずれにしても、横軸に変形量/直径をとり、縦軸に面圧/座屈応力度をとっています(Fig-12)。面圧が座屈応力の半分ぐらいであれば、座屈荷重の半分ぐらいの応力度であれば、直径の半分ぐらいまでは十分安定した変形能力を確保できるのではないか、ということです。それより低い領域、たとえば座屈応力度の5分の1ほどであれば、直径の80%ぐらいまで十分いけるのではないか、とかひとつの目安として考えています。これにどれくらい合うかということは、今後の実験データなり体系的な実験を通じて確認できると思います。

 最後に耐久性の話しを少しだけします。
 酸化反応、ゴムが酸化していく過程の影響と、昔はクリープということで「大きな荷重を支えたまま何十年も置いておいたらどんどん沈んでいくのではないか」といわれました。
 ゴムが劣化する要因としては、酸素、オゾン、紫外線などいろいろなものがいわれていますが、酸素による劣化が一番大きい要因ではないかということで、酸化というものが重要視されているわけです。酸化ですから、当然ゴムの表面からしか入ってきません。ゴムのボリュームが多ければ、内部に進行していく酸素の量もその分少なくなるだろう、ということが考えられます。これを確認するために加熱促進という、熱を加えることで化学反応が速く進行するという性質を利用して、何十年もの劣化状態を何十日というレベルで評価されています。後は実際のものを抜き取って調べようということで、メルボルンの100年前の防振パッドを取ってきていろいろな調査をした結果、表面は劣化しているものの内部の劣化は少ないということが明らかになっています。イギリスの橋梁用の支承を持ってきて、劣化調査をした結果もあります。面圧40 kg/cm2ぐらいで、今の建築に使われるものと比べたら非常に硬い、G10 kg/cm2とか12 kg/cm2のものですが、周辺部の劣化は進行しるものの、内部の劣化は小さいことが報告されています。
 いずれにしても、実際のデータを蓄積する、あるいは促進試験を使って劣化状態を予測することによって、数十年から100年ぐらいの耐久性は十分あるのではないか、と今では考えられています。
 クリープ変形ですが、実際の建物で測定された例も出ていますし、熱で促進させるということも試みられています。私の研究室では、実験室に試験体を置いて、何年も変形を計っています。3体のうち、1体は現在も進行中です。S11825333体で、S118のものは面圧110 kg/cm225のものは150 kg/cm233のものは200 kg/cm2という荷重を加えた状態で、変形をモニターしています(Fig-13)。その結果からクリープを予測し、実際のクリープ量を見てみますと、面圧が低い方がクリープ量が大きいことがわかります。
 圧縮剛性が高いS133のものは、クリープ量が非常に小さいままでおさまっています。6年目に入っていますが、0.2mmを少し超えたぐらいのクリープ量しかない。形状にもよりますが、クリープは無視できるのではないかと思われます。(次回に続く)

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