テーマ:時刻歴応答解析による構造設計実務の勘所
-刺激関数の応用と減衰の設定について-
講師: 古橋 剛( 日本大学 特任教授 )
日時:令和5年5月19日
概要:

古橋先生からは、時刻歴応答解析における刺激関数と減衰の設定について解説いただいた。地震に対する建物の動的設計には、時刻歴応答解析のほか、応答スペクトル法、エネルギー法がある。非線形応答を取り扱う場合には、時刻歴応答解析が必要であり、近年は機械任せで安易に応答解析ができるようになってきた。逆にいえば、設計者が解析の妥当性を判断することが非常に重要となる。

応答解析の前に、固有値解析を行って、解析モデルの固有値(周期)と振動モード(刺激関数)を求める。刺激関数は応答解析と設計者をつなぐ重要な情報となる。刺激関数を観察することで、解析モデルの妥当性、解析結果の妥当性を設計者が判断することができる。講演では、耐震構造や免震構造の解析例を紹介しながら、刺激関数の見方を解説してもらった。また、加速度や層間速度の刺激関数をとる方法についても紹介があった。

次に応答解析に用いる減衰についての解説で、比例型減衰には、質量比例型、剛性比例型があるが、実務では剛性比例型減衰が用いられる。剛性比例型減衰では、1次モードの減衰に対して、2次、3次モードでは1次の数倍にも減衰定数が大きくなることに注意が必要。工事モードの減衰を過大評価したくないときには、1次と2次の減衰定数を設定して、レーリー型減衰とする方がいい。8階建て建物モデルに剛性比例型とレーリー型減衰を設定して応答を比較すると、層間変形は建物上部で差が生じ、加速度応答ではかなり異なる結果となった。そのほか、中間階免震や屋上に鉄塔がある場合の解析での減衰の与え方についても紹介があった。

最近ではフレームモデルで応答解析を行うことも増えている。立体フレームモデルで例えばX方向の周期を指定して剛性比例型減衰を与えると、他の方向の減衰定数は指定とは異なる値となる。剛性比例型減衰ではX,Y,Zの各方向に任意の減衰を設定することはできないので注意が必要である。

刺激関数の観察から、主要なモードに対して減衰を設定しているか、応答を確認したいモードに適切な減衰が設定されているかなどを判断することが必要となる。

 

(文責:高山峯夫)