テーマ:鉄骨造建物の被災度区分判定の取り組み
講師:吉敷祥一 (東京工業大学准教授)
日時:令和2年10月1日
概要:

吉敷研究室の主要な研究課題は下記の通りである。
(1)耐震技術の高度化(損傷制御)
(2)既存建物の耐震性向上
(3)被災建物の残存耐震性能の把握とその補修

そのなかから3番目の研究内容「被災建物の残存耐震性能の把握とその補修」について講演していただいた。一つ目の話題は、体育館などを含む文教施設の鉄骨柱脚の損傷やブレーズの座屈による性能低下の把握と補修方法。損傷の指標となる局部変形や亀裂などの程度によって性能がどう変化しているかを定量的に確認する。こうした研究の動機は、使用者から「この建物は安全に使えますか?」ち訊かれたときに、「使えません」というのは簡単で無責任だと思ったから。どの程度なら取り壊す必要があるのか、復旧の妨げにならない補強技術を確立したい。こうした研究の成果は、被災度区分判定の指針に反映されている。

次の話題は、柱の損傷評価と補修で、局部座屈した鉄骨柱の補強材を溶接することで性能を回復させる方法を検討。局部座屈した柱を補修することに意味があるのかという意見もあるが、兵庫県南部地震のときには損傷した柱などを補強して補修した事例がある。ただこうした事例はゼネコンなどが行っており多くが公開されていない。これでは本当の意味で技術の集積になっていない。

本当の意味での性能設計を目指すことが必要で、損傷を前提とした設計も必要ではないか。

損傷をどう修復したかという情報をできる範囲で公開することは、今後の技術の発展にとても有益だと思う。免震積層ゴムの性能偽装でたくさんの積層ゴムが取り替えられた。そのときにもさまざまな技術開発が行われたはずだが、それらの情報は未公開のままだ。こうした技術の共有や公開をしやすくする環境を整えないといけないのではないか。

(文責:高山峯夫)